黒の世界を日本絵画の中に探る興味深い展覧会。江戸絵画や浮世絵では比較的短い期間であるが黒の世界を追求した時期があった。黒は日本の古色の一つで、暗い、暮れるなどと語源が同じようだ。江戸期、その闇の世界を二次元のアートの中で巧みに表現する先人達の技は実に見事。中でもとても興味深く思えたのは「紅嫌い」と言う手法だ。全体をモノトーンで描き、特別にフォーカスしたいところを彩色する。とりわけその手法が生きるのは夜のシーン。闇の全景の中に行燈や提灯の光が届くところをほんのりと彩色するのだ。それはまさに照明デザインのスケッチワークで我々がよく用いる光の表現によく似ている。なんだか少し嬉しくなった。さほど展示数は多くはないが、若冲のグラデーション、江戸風俗を描いた浮世絵、谷崎の陰翳礼讃まで幅のある黒に特化した面白い展覧会であった。
